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活動日誌

市「上質宿泊施設誘致制度」と、仁和寺門前ホテル建設計画を論ず

No.665

井上けんじの私案・試案です。計画の中止撤回を求める運動と議会論戦に役立つ立場からの、前向きなご意見ご批判をご教示願います。

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仁和寺門前における上質宿泊施設候補の選定は無効だ     2021/10/6   井上けんじ

 今春、市の「上質宿泊施設誘致制度要綱」にもとづき、事業者からの計画の提出、これを受けた有識者会議開催を経、市において、本計画を上質宿泊施設候補として選定と、4/19付、広報されている。そこで、以下、この選定は間違いであり取り消されるべきである、もっと言えば、上記制度自体の廃止を求める、との立場から、その根拠等について、自分なりに頭の整理をしておきたい。
 本制度は、「上質云々」と銘打ってその上質とやらの各指標である歴史や文化、地域の活性化への寄与等々を審査の対象とするという建前を装っているが、実際は、原則、違法であるところの「制限区域」での施設建設を、何の手続きも経ることなくハナからの前提として既成事実化してしまうという点にある。ここが問題の本質である。その「制限区域」での例外を、何の根拠もなく、また手続きも踏まず、所与の前提としたうえで、質の程度や可否の問題にすり替えているのである。上質か下質かは、程度の問題であり主観的なもので、本制度の根幹でも何でもない。本質を隠すダミーであり隠れ蓑でありイチジクの葉っぱにすぎない。論点が意図的にそらされている。
 要綱のフレームは以下の通りである。即ち、事業者が上質たる計画を立案、市に提出、市長任命の有識者の意見を聴取、市長が上質候補として選定の可否を判断、選定されれば、その「質」を維持する為に事業者は引き続き努力していく。更にその後、次の別制度に基づく手続きに移行していくことになる。しかし、である。本制度は、提出すべき計画をどこで具体化するか、どこで立地するのかと言えば、それはそもそもの前提として「制限区域」だとされている。「上質宿泊施設計画」とは、「制限区域」内での計画のことをいう、というのが要綱上の定義である。「制限区域」外での施設建築の計画や申請は、そもそも本制度の対象にはならない。五つ星の超上質施設を計画し、市に提出しても、宿泊施設建築可能な地域地区での計画である限り、受理すらしてもらえないとの仕組みになっている。一方、審査の対象とされたが選定されなかったとしても、手続き上は何の障害にもならない。今後の別の手続き上、不利になるとか、市民的な評価がどうであるとかの影響は免れないとしても、「建ててはいけない」とはならない。そもそも、本要綱にはそういう想定については何らの規定もない。「上質」かどうかは問題の本質ではないのである。
 周知の通り、建築基準法第48条では、一定の地域では宿泊施設は「建築してはならない」が、例外的に、特定行政庁が「許可に利害関係を有する者の出頭を求めて公開により意見を聴取し、かつ建築審査会の同意を得」たうえで許可すれば、「この限りでない」とされている。つまり、制限区域での建築は、厳重な手続きを経たうえでなければ許可されないのである。そんな手続きは誰も踏んでいない。今の時点では、原則通り禁止されている状態なのである。然るに、本制度は、そもそもからその「制限区域」での計画立案が前提とされている。上質かどうかの判断以前、それどころか何らかの計画の提出の有無以前、有無にかかわらず、要綱の存在自体が、法律上の手続きを勝手に踏みにじり、法律上の「例外」を既成事実化してしまっているのである。
 昨年1/24の市議会常任委員会での私の質問に、担当部長は「様々なプロセスを全て通ったうえで」、「選定されたものが自動的にそのまま許可を受けられる訳ではない」等と答弁されておられた。確かに、今後、建築基準法に基づく手続きに移っていくし、そこでのハードルがあることはその通りである。同法での手続きのキモは、市長が例外を認めるかどうか、建築審査会の同意を得られるかどうか、にある。然るに、そのハードルは、この上質制度が、その例外の可否の判断の本命である同法48条の手続きに先立って、既に前提的にクリアしてしまっているのである。審査を経て、認める認めないを決めるのではなく、制度の枠組みそのものが、既に例外を認め、制限区域での立地を前提としたものとして設計されているのである。本制度で上質と選定されなかったとしても、その後の建築審査会での審査を何か左右するものでもない。委員の心証には影響があるかも知れないが、基本的には別の手続き・概念であるから、建築審査会は、あくまでも都市計画法と建築基準法の趣旨に則って判断されるべきであろう。事業者にとっては、「上質との選定」がカギなのではない。提案が受理された段階で(制度的には制度の存在の段階で)、その時点で建築基準法上の例外が認められたことになるという規制事実が得られるのである。繰り返しになるが、「制限区域」での計画が、本制度上の計画であるからである。受理は市長の権限であるから、既にこの時点で市長の「意思」は明白である。建築基準法上の要件を満たさずに、市長は独断で「許可」しているのである。そのこと自体が、要綱が法律の規定を超えており法律のルールを無視しているから、要綱のこの部分は違法であり無効である。またこんな状態で建築審査会が、その後の手続きとして開かれたとしても、既に市長の意思は明白、どころか圧力として働くであろう。制限区域での計画を既に受理されている提案に異を唱えることが、市長任命の審査委員に可能であろうかとの危惧を禁じ得ない。
 一般に何らかの申請において、複数の諸手続きを経なければならない場合、行政等の各部署は各々の専門性に応じて夫々のハードルを設けて審査するのであって、同一の部署が複数の要件を審査することはあっても、通常、同一の要件を複数の部署が審査することはない。然るに本件事例では、「制限区域」での建築の可否を、異なる部署と方法によってダブルチェックとされている。というより、まず本制度での手続きはチェックではなく、ノーチェック、どころか、そもそも制度の前提とされている。本要綱は、「制限区域」での建築の可否を審査するためのものではなく最初からの前提としている。「諸手続きのうちの夫々のハードル」との答弁はあたらない。上質の可否の選定との外観を装って、制限区域での建築許可を既成事実化しようとするのが、本制度の本質なのである。
 そもそもその要綱を定めたのが市長であり、今春、候補として選定したのも市長である。事業者から計画の提出を受け取った時点で、仮にその後、上質とは言えないとの評価であったとしても、既に受理の時点で、市長の意思は既に明確である。その後、建築審査会が開かれても、結局は「出来レース」にしかならないことが危惧される。市長は、虚心坦懐、心涼やかに審査会の同意の有無に素直に従うということではなく、既に「上質〜」の手続きにおいて「例外を認めるとの許可」を強力にアナウンスしているのであるから、これは、審査会各委員の、都市計画法と建築基準法の趣旨に則った純粋な判断に対し、制度としてプレッシャーをかけてしまうという構造になってしまっているということである。穿った見方をすれば、本制度の本質は、「上質云々」ではなくて「制限区域」での建築を可とするものであるばかりでなく、結果として、ではなく、元々、この「制限区域」での建築を、利害関係を有する者の意見聴取や建築審査会での審査の前に、予め認めてしまおうとするものである。
 憲法違反の法律は無効であり破棄されなければならない。法律違反であり、法律の手続きに介入する要綱は無効であり破棄されなければならない。個々の条項が違反でありその部分が無効というよりも、本制度は「制限区域」での建設を前提とした制度であるところから、制度全体が最早無効である。引き続き市を追及していきたい。 以上

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