労働者の賃上げへ、自治体でできること
No.682
以前、市会議員在職中に書いた拙文です。長や(一般に首長と言われているが、ある先生によると、複数人での構成による内閣ではなく独任だから、「首」は要らない、とのこと。井上も賛成。要するに、ここでは市長のこと)議会の姿勢次第で、民間とはいえ、労働者の賃金にも大きな影響を発揮できるということを言いたい文章です。まして、中小企業への(賃上げ財源の為の)支援は、自治体の直接的な課題でもありますから。とりあえずアップします。ご意見ご批判を頂いて、今後とも、みんなの知恵で、言い政策ができればと思います。中小企業への支援が前提ですが、賃上げは、消費購買力アップで需要拡大、消費拡大、ひいては、商店や、大企業も含め供給・流通サイドの利益アップにも繋がる景気回復、経済健全化への道でもあると思います。「井上とは違う」ではなく、「井上の意見とは違う」との立場で、議論が交わせたらいいかと思います。ご指導ご教示願います。
※ ※ ※
政策チーム 2023/1/4改定版 井上けんじ
労働者市民の賃金労働条件の改善をめざして
目次
はじめに
第1章 課題の整理と設定、賃上げの課題の意義
1、課題の整理、本政策の位置付け
2、賃上げの意義
第2章 各分野毎の、労働者の賃金労働条件の改善をめざして
1、京都市職員は、…
(1) (2) (3)
2、会計年度任用職員は、…
(1) (2) (3) (4)
3、公共事業受注企業や…
(1) (2) (3) (4) (5) (6)
4、各分野政策は、…
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
5、ある金融機関の調査では、…
6、非正規・不安定雇用労働者については、…
第3章 改善をめざすにあたっての留意点
1、中小企業・零細事業所とそこで働く事業主・労働者の「一体的」性格
(1) (2) (3) (4) (5)
2、中小企業経営者一般に解消され得ない零細自営業者、賃労働者化する自営業者
(1) (2) (3)
3、それでもやはり労働者固有の課題と独自の現状改善策、その具体化
(1) (2) (3) (4) (5)
4、制度の「谷間」にある自営業者的労働者と労働者的自営業者
(1) (2)
5、企業規模に関わらず、労働者の賃金労働条件改善をめざす
第4章 手法やアプローチ、手立てなど
1、市長の発信
2、ブラック企業根絶、パワハラ・セクハラ防止・根絶
3、実態調査等労働行政、相談窓口の設置等
4、各産業政策の立案(再掲)
5、市の各種附属機関等の委員に労働者代表を選ぶ場合、連合と総評を平等に扱うこと
おわりに
はじめに
市統計書によると、2020年の数字として、常用労働者数945,551人、一般雇用保険被保険者数590,656人となっており、その内訳として、これは2017年の数字しかありませんが(単位千人)、以下のようなデータが紹介されています。
自営業主 71千人
家族従業者 20
雇用者 682
無業者 524
家事をしている者234
通学をしている者104
また2017年の就業構造基本調査によると、従業上の地位別・雇用形態別有業者数との欄では、会社などの役員 45千人
正規の職員・従業員 369千人
非正規の職員・従業員268千人とあり、更にこの268千人の内訳として、 パート117千人
アルバイト 80
労働者派遣事業所の派遣社員 15
契約社員 28
嘱託 15
その他 13
と紹介されています。これらのデータから、ごく大まかにいえば、京都市内では、働いている人約77万人、うち家族従事者含む自営業9万人余、労働者64万人等と読み取ることができます。労働者のうち非正規雇用率が42.0%(女58.2、男26.8)となっており、実に、27万人近くということになります。また、これらの統計書のコメント欄では次のような特徴が書かれています。
○ 女性の有業者が増えてきている様子がみてとれます。
○ 経年変化では、15〜19 歳,65〜69 歳,70〜74 歳の年齢階層で、有業者の増加 率が 40%以上(70〜74 歳の年齢階層では 56.7%)となっており,若年層・高齢 者の有業者が大きく増加した様子がうかがえます。
○ 産業別に有業者数をみると,「卸売業,小売業」(13 万 1400 人),「製造業」(11 万 8200人),「医療,福祉」(10 万 7300 人)といった業種で有業者数が多くなっていま す。
○ 正規雇用者の割合をみると,「電気・ガス・熱供給・水道業」(89.7%),「公務(他 に分類されるものを除く)」(87.1%),「情報通信業」(81.3%)等で高く、「宿泊業、 飲食サービス業」(19.4%),「生活関連サービス業,娯楽業」(41.6%),「サービス業 (他に分類されないもの)」(42.6%)等で低くなっています。
この統計からだけでは、市外からの通勤者や市外へ通勤する市民のどちらを含むのか含まないのかは明らかにされていませんが、市統計課への照会では京都市民対象の調査とのことですので、実際の職場での調査なら異なる数字になるかも知れません。それでも京都市の場合、昼間人口の夜間定住人口比は、他の大都市ほど高くないと推測されますし、いずれにせよ各職場の現場でもほぼ同様の傾向と考えても間違いはないでしょう。市民の半分強が働き、半分弱が労働者となっています。加えてそのうちの非正規労働者比率が高いのも本市の特徴となっています。市が、市民の暮らしの充実と向上という目標を掲げる限り、その市民の半数を占める、非正規も含めた労働者を抜きにするわけにはいきません。その勤労市民の、家庭での介護や保育、教育、住宅等の諸課題は各分野毎の政策として別に示すこととして、ここでは、「生活とその為の収入の糧である仕事と労働」にかかわったところでの、目標の設定やその実現をめざす方向について提起します。
なお、以上に紹介した統計結果はかなり古いものである上に、国の調査のうちの京都市の部分を取り出しただけという場合が、他の調査も含め少なくありません。中小企業施策等、産業政策全般について言えることですが、市の独自調査、それもできるだけアップデイトな実態を明らかにする調査・研究の充実も、市の政策等立案の必須の前提的な課題として掲げておかなければなりません。
第1章 課題の整理と設定、賃上げの課題の意義
1、課題の整理、本政策の位置付け
前述、労働者の「生活とその為の収入の糧である仕事と労働」と言えば、賃金水準が最大の要素であることは言うまでもありません。しかし一般に、賃金や労働条件は、直接的には労使の問題であり、行政、まして地方自治体がどこまで関与しうるのかは難しい問題です。まず国も含めて考えると、周知の通り憲法27条で、「賃金…勤労条件に関する基準は法律でこれを定める」と謳われ、この基準を行政の力で引き上げることは可能だし、また労使各当事者間に対してとはいえこの基準法が「これは最低基準であり、その向上を図るように努めなければならない」との趣旨を謳っているところから、この大原則たる趣旨は、翻って、行政にも求められていると理解すべきでしょう。現行、賃金や労働条件の最低基準は国の法律に依っており、また労組法に基づく地方労働委員会の設置等の「労働行政」は都道府県の役割とされています。そこで、では市町村として、「住民福祉向上」の課題を、労働者住民に対し、どのように具体化していくのか。重いテーマではありますが、市民の多数を占める労働者とその家族の生活の維持・向上という大きな課題を曖昧にする訳にはいきません。
ではどう接近するか。まず労働者の対象を次の6分野に整理した上で、以下、第2章でそのそれぞれの分野毎に改善の方向を順次、提起し、その後、第3章では、これらの枠組みとは少し異なった角度からの視点を考えます。第2章の各分野・対象をタテ軸にとれば、それらを横断的に捉える、いわばヨコ軸にあたる項目を何点か考えたのがこの章です。この文書は党の政策とはいえ、広く関係者の皆さんのご意見をお聞きし、練り上げ、その深化の過程ででも、論戦や活動等、実践にも生かしながら、更にフィードバックしていきたいと考えています。その点で、賃金労働条件改善の課題を重層的立体的、横断的に捉え、考えていく上での章の立て方としました。
(1)京都市職員
(2)京都市会計年度任用職員
(3)公共事業受注企業や受託事業所、指定管理者等、「公務」従事の「民間」労働者
(4)各分野政策を通じて当該分野労働者の賃金労働条件の改善を図る
(5)一般の民間労働者
(6)上の(5)のうち、特に非正規・不安定雇用労働者
2、賃上げの意義
自治体が「住民福祉の向上」を掲げる限り、その住民の中で最も多数を占める労働者の生活の糧である賃金労働条件の改善課題もまた自治体の役割であると前述しました。しかしこの課題は、もっと積極的な、そしてその成果と影響が市民全体の暮らしや仕事にも及ぶという意味で、更に大きな社会的意義を持っています。年金や生活保護費など社会保障と賃金の水準は、国民生活全体のバロメーターであり、ここでの底上げは、市民生活全般の生活水準を押し上げます。今日の社会においては、全般的な過剰生産の傾向が続き、生産に対し、消費購買力が追いついていません。自民党政府は、需要拡大の方向として、国民の個人消費拡大よりもムダな大型公共事業や軍需産業の政府調達等に走るばかりです。従って大企業も販売が伸びず、労働者の非正規化や賃下げ、金融所得獲得、献金攻勢で自民党政府に減税を迫るなど、「本業」から外れた分野での利益拡大に走っている有様で、社会の在り方としても健全とは言えない現状です。「資本家はモノは買ってほしいけれども賃金は上げたくない」「他の会社の賃金購買力は上げたいが自分の会社の労働者の賃上げはしたくない」。これは資本主義の根本的矛盾に通じる話ですがそれはともかく、消費者の多数を占める年金生活者や労働者の収入が伸び悩みとあれば、消費の減退は必至です。造ったモノが売れる、利益が次の生産に回っていくという今の社会の姿を取り戻すカギは、市民の消費購買力向上であり、特に賃上げこそは、この課題への答えになるものです(もっとも今日では消費購買力に対して過剰生産というより、モノによっては絶対的に過剰になっている物もあると思われますし、そしてそのことの追及は社会の在り方を変える話にもなっていくわけですがそれもともかく)。個人消費の拡大は、供給側の立場から言えば、小売業や流通・製造業の売上げアップ、ひいては生産財製造業にまでその成果が及ぶものです。特に京都市の場合、中小零細事業所の占める割合が高いことから、地元商店や地域の中小企業など、広範にその成果が及ぶことになるでしょう。
第2章 各分野毎の、労働者の賃金労働条件の改善をめざして
1、京都市職員は、次の第2項の「会計年度任用職員」とともに、市長自身が直接の雇用 主ですから、自治体行政の労働者政策云々というよりも、自身が雇っている労働者の賃 金労働条件に、直接、責任を負う立場です。従って、自治体政策としては、ここで多く を語るまでもありません。その改善をめざす上での決定過程や考え方に絞って何点か提 起します。公営企業も含め、1万人を超える「オール市役所」は、事業所の規模として は市内有数の「大企業」とも言える存在ですから、そこでの賃金水準は、人勧が「民間 との差」に基づいて、後追い的に決められるとはいえ、やはり市内全体の労働者の水準 に大きな影響を与えることになるでしょう。
(1)何よりもまず公務労働者であり憲法上の「全体の奉仕者」ですから、市民の生活水 準がその目安となるべきです。職務職責上の責任の程度や経験の違い等々は勿論考慮 されるべきですが、どの局部課であれ、職員が集団としてチームを組んで公務にあた っていくことから、その水準は生計費を基礎とし、できるだけ格差の開かない賃金体 系が前提だと考えます。人事評価は集団的公務労働にはなじまないものであるととも に、市民の利益に反する施策遂行にも職員を駆り立て、長の支配強化と職員分断を図 ろうとするものです。
(2)その一方で、昔の官吏や身分制ではなく、メリットシステムのもとで、「全体」に 奉仕する労働者であり(どの職務までを労働組合の対象とするかは、その職制の加入 による労組にとっての利益不利益の立場から労組が判断し、労使交渉で決めればいい ことです)、従ってその性格から、労使対等決定原則が貫かれるべきです。本来は、 世界の水準に合わせて労働三権が保障されるべきですが、当面は人事院・人事委員会 制度に基づいて、その勧告が尊重されるべきです。人事院人事委員会勧告は、民間と の差とともに、何よりも生計費が基礎とされるべきです。その上で、労働組合との合 意の後、議会の、即ち住民の関与による水準と体系の決定という運びになるでしょう。
(3)地方公務員法が「行政組織法」としての性格を持つことから、労働法として公務員 労働者の労働基本権を守るという性格が希薄になっている面があると、以前から指摘 の通りですが、原則的には、労働者としての権利が保障されたうえで、且つ全体の奉 仕者として住民の、実際には議会の関与の元で賃金労働条件が決められていくべきだ と考えます。維新の会などは、人事評価の徹底であったり、賃金引き上げに反対等と の立場のようですが、大阪の例で言えば、市職員ですら特権階級呼ばわりし、非正規 労働者との格差を問題にするのは間違いではないにしても、その是正の為に正規の条 件を下げて低い方に合わせるというのでは、格差縮小とは言っても方向が真逆です。 未だに「身分」と捉えているようなところに彼等の時代錯誤性が示されています。こ ういう発想の背景には、雇用の流動化などという新自由主義的労働観が横たわってお り、とうてい受け容れることはできません。
2、会計年度任用職員は、従来、様々な形態で、便宜的な雇われ方が常態化していた自治 体非正規労働者の雇用の態様が、複雑多岐に渡り、その矛盾を糊塗しつつ整理する必要 があったことと、一方、当事者と当該労働組合の運動の進展もあって、2020年度から、 新たに、地方公務員法上に位置付けられた職員です。地公法上、正規の公務員より短い 労働時間と同一の労働時間とに分けられ、前者を法律の規定に従って一号職員、後者を 二号職員としています。京都市では、ABCと区分され、一号をA、二号をBと位置付 けています(Cは相当高度の知識・技術・経験等を要する職務に従事する者の職とされ ています)。
(1)一号職員は、労働時間が、例え僅かでも「短い」というだけで、また二号職員は市 によって、B=補助的業務とされているだけのことから、いずれも、文字通り一会計 年度毎の雇用契約で更新はあるものの、4回までとされています。そもそもこういう 名称を使うこと自体、名は体を表しており不安定雇用の象徴で差別的なニュアンスさ え感じられます。賃金は職種によって様々ですが、二号職員の場合、週38時間45分 で、本給+10%の地域手当=月138,300円×1.1=152,130円('22年度)、時間賃金 は969.36円にしかなりません。'22/10/9発効の、京都府最低賃金時給968円を辛うじ て下回らないという水準です。23年度は157,740円と予定され、これでようやく時間 賃金1,005.1円になる予定ですが、同年度の最賃の改定によってこの見込みが下回れ ば、その時点で「検討」とされています。
(2)労働時間等によって共済が適用されず、国保・国年の労働者も存在するなど、地公 法上の公務員とされながら、社会保障法上の制約もあって、福利厚生・社会保障の面 でも不十分な実態です。
(3)今日、自民党政府のもとで、政策的に不安定雇用労働者が増やされ、また労働者の 実質賃金が低下傾向にあり、労働者の正規雇用化や賃金差別解消、実質賃金の底上げ 等々が、労働者の生活を守るうえでも、また経済の健全な発展の為にも、大きな課題 になっています。本来、本政策は、民間労働者も市民であることからその暮らしを守 り市民生活の向上をめざす立場から、その政策対象として位置付けているわけですが、 前述の通り、「公務員」については、自治体政策以前に、雇用主としての市長の直接 的責任の元にあります。また公務員の賃金水準が民間労働者にも影響を与えることは 前述の通りですが、今日、「非正規・不安定雇用」の克服が大きな社会問題にもなっ ている折、市長が雇用責任を持つところの不安定雇用労働者の在り方は、正規公務員 以上に、その社会的影響や効果は大きいと言わなければなりません。広く民間の非正 規雇用労働者の雇用や賃金労働条件改善をめざすためにも、まず市長が、会計年度任 用職員の賃金労働条件、福利厚生、社会保障全般に渡る、抜本的な改善を図り、社会 的先導的役割を果たすべきです。
(4)ところが一方で、民間には適用される「5年ルール」が、会計年度任用職員には適 用がありません。というより、それを避ける為に更新は4回・5年迄としているので しょうか。勿論、一般の市職員採用試験や、再度ハローワークを通じての会計年度職 員への応募の機会は、誰にでも門戸開放されてはいますが、そのことと、今現在の会 計年度職員としての雇用継続とは別の話です。全体の奉仕者である為には、まず自ら が、雇用不安から解放されなければなりません。公の仕事に就きながら、一方でこの 「4回ルール」の存在は、正に本制度自体の矛盾というべきです。「5年ルール」は、 正規職員への転換を意味するものではなく、無期への転換を図るとはいえ身分はその ままですから、「会計年度任用職員」とのままであったとしても、無期雇用とする制 度への移行は可能です(国の場合は「期間業務職員」と呼ばれ、一年度とも限らない 恣意的な期間で2回更新までとされている)。本市の場合、指定都市の中では最高の 更新回数となってはいますが、この判断は自治体の裁量ですから、市長の判断での無 期転換は可能です。国や自治体が、非正規雇用を創り温存し不安定な労働環境を続け るような制度は、民間の非正規雇用問題全般に与える影響からも、一刻も早くその改 善が課題とされるべきです。
3、公共事業受注企業や受託事業所、指定管理者、委託業務等、「公務」従事の「民間」 労働者、「民間公務労働者」については、一般的には「直接」ではないにしろ、市長が 広義の雇用主、大きく、ある意味、決定的な役割を果たす領域と言っても過言ではあり ません。労働運動の分野では、古くから、「使用者概念の拡大」「背景資本」として位 置付けられてきた立場にあります。しかも、この分野での改善は、上の1・2の労働者 以上に、より広範な労働者の賃金労働条件に与える影響は大きいと言えるでしょう。な ぜなら、市長の関与・責任、且つここで論じる労働者自身が民間であるからです。自治 体の「民間化」に伴って、結果としてこの領域で働く労働者数は急増し、またその分野 も、上の2の分類とも重なり合いながら、地域の消防団員、学術文芸や清掃や交通、水 道など文化と生活、ライフラインに関わる業務等々、非常に多岐に渡っています。
(1)市が発注する公共事業においては、その予定価格の算定に当たり、設計労務単価そ の他の指標が根拠とされますから、その算定価格通り、実際にも賃金が支払われてい るかどうかの点検は、公金が正しく使われているかどうかという立場からも、当然の 課題です。一人親方や末端の下請け労働者に至るまで、市としてチェックします。
(2)その為にも、現行「公契約条例」に新たに賃金条項を付け加え、指定管理等も含め、 市が広い意味で仕事を提供する各分野に適用するように、制度を整備します。同条項 は、基準賃金を保障するのが市自身であり、またその基準を確保するようにとの市と 事業者との契約ですから、巷間言われている否定的な理由は、すべて克服済みの論点 でしかありません。市長において、条例改正に取り組みます。
(3)指定管理制度における、昨今の「利用料金制」は、民間の創意工夫の名のもとに、 本来の市の公的責任を、指定管理者に肩代わりさせしわ寄せするもので、その管理者 に対し、雇用労働者か、または施設利用者の市民の、どちらかにしわ寄せする方向に 追い込むものです。そもそも公の施設は文化や福利厚生等々、市民の諸権利の確保拡 大の為のものであって、採算とか料金制等の仕組にはなじまないものです。また管理 者雇用の労働者に対する、市長の関与責任を遠ざけ、より曖昧にするものでもあり、 二重に問題です。利用料金制をやめ、上の、条例賃金条項の適用対象として位置付け ます。
(4)しかしもっと言えば、そもそも指定管理制度自体が、特に小規模事業者における指 定替えの場合など、労働者の雇用不安を内包した仕組みであり、自治体の公的責任と ともに、労働者の雇用の面との二重の問題を孕んでいます。しかも同制度の真の狙い は、指定管理候補として営利団体をも位置付け、その参入に道を開くところにあり、 既にこれは多数の「実績事例」を積み重ねるに至っています。営利団体である限り、 利益の追求と雇用労働者の賃金労働条件は相反する方向であるというのは主観の問題 ではありません。法改正をめざすとともに、当面、運用の改善で、市の公的責任と役 割の発揮、労働者の賃金労働条件確保の方向を目指します。
(5)上で挙げた各分野の他、公共調達の分野での仕事に携わる労働者、また様々な形態 で、広い意味での公務に係わる民間労働者はもっと多岐に渡ります。清掃や交通等の 分野でも、公契約条例で位置付けができればいいのですが、委託先事業者任せにせず、 賃金の確保もまた委託条項に加味し、低い委託条件が労働者へのしわ寄せにならない よう、配慮と監視が必要です。更には、各委託先等での非正規問題もありますし、女 性差別や各種のハラスメントも起こるなどしています。分野毎に、また課題横断的に も、市のチェック機能を強め、広く、労働者の権利を守っていくようにします。
(6)当面の具体的な事例として、ヘルスピアでの雇用と学童保育児童館で働く労働者の 労組の不当労働行為の問題について触れておきます。前者は、市の施設廃止という暴 挙によって、指定替えどころか、管理すべき施設自体がなくなってしまおうとする事 例であり、しかも管理団体は、当該施設が唯一の管理施設ですから、雇用主団体自体 の存亡に係わる事態となっています。百歩譲って施設の存廃は市の政策判断であると の言い分が有り得るとしても、労働者の雇用継続については市として言い訳の余地は ありません。「廃止」目前の今、、市長は雇用に責任を持つべきです。しかも最近、 発覚したところでは、「あとかたづけ」の為に指定管理を2月末で解除し、3月は別 の団体が受託する方向とのことですが、これは、3月末迄とする前提で現在の指定管 理者を承認した議会議決をも踏みにじるもので、「専守防衛」の大転換等、国会抜き の内閣の暴走と同じ性質のものです。
後者は、団体交渉をめぐっての問題ですが、労働委員会が市に団交を命じたこと自 体、間接ではなく、直接に市長の雇用責任を認めたものです。しかも、この命令は、 市長が「不服があるから裁判に訴えた」からといって曖昧にされていいわけではなく、 不服があろうと訴えに出ようと、命令の履行を免れるわけではありません。委員会の 命令に対し、主観的な理由をもってこれを拒否し続けるというのは、公務に携わる者 としてあるまじき対応であると言わなければなりません。
4、各分野政策は、そのそれぞれの産業や分野の発展や、その施策の対象である市民の権 利の拡充等をめざして、その内容や位置付け、程度は別にしても、多くの分野で、また 歴史的にも、各自治体で立案され、実践されてきました。当然、これらの政策は、多く の場合、その分野で働く労働者への言及は少なく、語られることがあったとしてもそれ は、あくまでも結果であったり、付随的であったりで、正面からの課題として位置付け られてきたわけではありません。しかし一方、どの産業・分野であれ、その発展・展開 の為には、それを推進し、担う役割を果たす当該労働者の賃金労働条件の裏付け抜きに、 語ることができないことも、また自明のことでしょう。そこで今後、この課題にも触れ、 積極的に位置付けて、その分野での施策の充実という本来の政策課題と結合させ、車の 両輪として課題化し、そのことを通じて当該分野労働者の賃金労働条件の改善を図ると いう手法を提案します。どの事業であれ、それを支え推進する当該労働者の労働抜きに は、進行・振興しえないからであり、そこでの労働条件改善は、ひいてはその事業自体 の発展振興に繋がるからです。「低賃金は労働の質を低める」との言葉は逆の場合にも 当てはまります。一般的には、賃金労働条件は、各産業分野別にそれぞれ共通性を持つ 傾 向がありますから、市長の姿勢次第では、純民間であっても、当該分野での市関連 の労働者の条件が先導的役割を果たすことも有り得るし、また可能でもあります。実際 にも有力な影響力を発揮することでしょう。
なお、時折、単発の手当応援等の対応がされる場合がありますが、労働者間に分断を 生まない、より横断的な、更にまた持続的な制度としての改善策が求められます。以下、 順不同でいくつかの分野を取り上げます。
(1)福祉の分野では、まさにマンパワーです。かつて、府や市において、当時の高齢者 ・障害者福祉施設職員の、措置費人件費での不足分を府や市が補填をして定期昇給を 保障しようとする制度が創られ、また創設を試みられたことなどもありましたが、そ の後の制度の変遷によって、自治体の関与は、制度の利用活用における当事者に対し ての支援に限定される方向です。制度が変わっても、自治体からの補填が可能なのは、 例えば市立市営の福祉施設を想定し、そこでの職員の位置を考えてみれば容易にイメ ージできるでしょう。在宅福祉やその他の制度を支える各職種については、より一層、 自治体の直接的な関与が可能です。介護保険の認定給付業務の民間移管などが大問題 であることは言うまでもありません。今日、人手不足が大きな問題になっており、ま た「低賃金は労働の質を低める」とも言われます。福祉を支える為にも当事者本人や その家族への権利保障や支援充実とともに、当該労働者の賃金労働条件改善が必須の 課題になっています。
(2)児童福祉施設については、保育園と、障害・養護等乳幼児施設とで、「プール制」 や「児童施設処遇改善委員会」等の賃金補填策が、民間の関係者の甚大な努力と運動 等もあって、分野政策の一環というより、賃金労働条件が独自の課題として追求され てきたという先進的な歴史があります。そういうモデルが既にありますから、全く同 じ仕組みにするかどうかはともかく、要は市長の姿勢次第です。
(3)児童館学童保育所労働者については、長い間、「短時間労働」だから低賃金は当然、 との市の理屈で、ずっと低賃金状態が続いています。しかし、児童館は公園や図書館 と同様、市民の来館の如何に係わらず、決められた時間帯は開けておかなければなら ないのは当たり前のことであり、また実際、母親教室等、積極的な企画の実践なども 進んでいます。学童や乳幼児の保育の根本問題のひとつは、子ども相手の時間だけが 労働時間だとする発想があり、専門性を軽視するところから来ています。研究や準備、 記録、会議等々、「自分の時間、職員集団の時間」が不可欠です。
(4)まちづくりや道路交通の分野でもそれぞれの政策が折々発表されています。交通政 策立案において、その担い手である労働者の労働条件改善が欠かせません。タクシー や私鉄も含め、公営でなくとも公共交通であるからこそ、運輸や商業ではなく交通労 働者なのであって、命を運ぶ分野であることを銘記しなければなりません。また個人 タクシーの場合も、自営業とはいえ事実上労働者化している面もあり、また後述の通 り、労働者の待遇改善は、中小零細事業所自体の経営の安定と発展とほぼ同義語であ り、大手に収奪されているという面では、階級的同盟関係にあるとも言えると考えま す。
(5)例えば熊本県には「建設産業政策」があり、その中で、入札制度の改善や地元発注 等々の改善方向とともに、産業の発展の為には当該労働者の働き方改革が必要とも位 置付けられ、課題設定されています。公共事業のあり方や、特に今日の「人手不足」 問題等等、労働者の為にというより、産業政策自体としても、その政策立案の必要性 は高まっていると考えます。市民の生活に不可欠の衣食住の住の分野を担い、また市 民の生活を支える公共事業やインフラの建設や維持補修等等、社会的に果たしている 役割は非常に大きなものがあるといえるでしょう。その役割にふさわしい、担い手と しての裏付けが必要です。少なくとも、国の設計労務単価の水準を最低基準として位 置付け具体化ることが必要です。
(6)伝統産業、伝統工芸等の分野でも、自営業者との境界線上の「労働者」が存在しま すが、その違いと区別の追求よりも、両方の待遇改善を同時に考えていく方が現実的 実際的だと思われます。特にこの分野こそ、当該産業の発展抜きに、労働者だけの問 題を考えてみてもうまくはいきません。しかし勿論このことは、労働者の独自の労働 基本権の活用を否定的に考えることでは決してありません。文化芸術等の分野と同様、 卓越した「名人」や専門家の顕彰等だけでなく、裾野の拡大が不可欠ですが、その為 にも、需要と販路、使途の拡大、ブランドものとともに庶民生活への実用化の道、そ の為の研究や開発、広く消費者の購買力アップや生活のゆとりの向上等々の為の諸施 策など、行政の政策としては一通りのものが創られてはいますが、その一層の充実と 具体化が求められています。
(7)自治体の商業政策といえば、従来は、特に大型店の出店規制を緩和しようとする国 やこれに追随する自治体と、商店街など地元の中小小売店を守ろうとする運動とのせ めぎ合いの中で、緩和と出店を前提としたうえでの商店街へのあれこれの弥縫策を考 える類のものがほとんどでした。その範囲内での政策ですから、政策と言っても実際 は商店街に困難を押しつけるものであったし、また小売り自営業や商店街が政策対象 ですから、商業労働者の話が全く出てこないのも当然です。
しかし一方、今日の商業や流通の問題を考えるとき、大型店の再編や中堅スーパー の撤退、「無店舗営業」の普及等々、地域によっては、市内でさえ、コンビニ以外に 食料・生活用品を買い求める店舗のない「無医村」ならぬ「無店地域」とともに、そ の地域での買物難民が生まれています。供給・流通の分野でも、「市場任せ」だけに するわけにはいかない現実があります。同時に、宅配の広がりや商業資本の流通費支 援を本質とする都市高速道路の普及等の動向は、商業・流通労働者の労働密度等労働 環境への影響を抜きにするわけにはいきません。大型店では、女性の非正規労働者が その担い手の主力ですし、コンビニもまた、フランチャイズとの関係が大きな社会問 題にもなり、店主の「団体交渉の権利」の有無が問われたりしています。
消費税減税や物価高対策など、行政の立ち位置や見解、施策等は、消費や流通の分 野に大きな影響を与えます。消費者の購買力向上がカギですが、これは狭義の商業政 策ではとても覆い尽くせません。その一端は、この政策全体の基調でもありますが、 いずれにせよ、今日の情勢にふさわしい、当該労働者の労働条件改善の課題を含んだ、 新たな商業政策が求められています。関係者の皆さんのご意見聴取や、当面の論戦や 運動を続けながら、ここでは、引き続く課題として宿題にしておきます。
(8)その他、自治体の仕事は、それこそ「ゆりかごから墓場まで」ですから、もっとい ろいろな分野で、住民の権利拡大と福祉増進の立場からの現状分析や課題の設定、改 善方向を明らかにする等々の活動が必要ですし、また民間も含め当該労働者の労働条 件改善や働きがいの深化等々の追求も必要です。体系的にまとめてからというより、 議員団としては、日々、様々な論戦に取り組んでいますから、その積み上げを今後と も蓄積していきたいと考えています。
5、ある金融機関の調査では、名目年収1千万円前後のサラリーマン世帯でも、その約一 割前後は、貯蓄ほぼゼロといわれています。その要因として、ある経済評論家は、保険 料など天引き額のアップ、各種控除の改悪縮小による目に見えにくい増税、特に教育費 ・住宅費の負担増の他、会社によっては、従来は会社経費で落とせていたものが自己負 担になっているとの傾向も無視できないと指摘されています。一見、豊かな暮らしに見 えても、大手でも倒産・リストラ、配転や降格などのリスクや危惧、不安などがつきま とい、かつてのような終身雇用や年功序列、定期昇給が保障されているわけでもありま せん。企業内組合は組織形態上、批判もありましたが、それでも大きな役割を果たして きました。最近、随分少なくなっていることも、リスクや不安増大の一因になっていま す。しかし、公務と直接には繋がりのないかのように見える民間分野でも、広くは、本 政策案で展開しているような各分野・課題での市の先導的役割が発揮されれば、必ずや その影響が及び、全体としての底上げが図られていくと確信します。
6、非正規・不安定雇用労働者については、派遣法の抜本的改善が必要ですし、また立場 や雇用期間・労働時間の違いに関わらず、同じ仕事なら同じ賃金労働条件で、との原則 への接近が求められます。女性の非正規率が高いところから、男女差別解消との見地か らの改善方向も追求できます。消費税は、正規の人件費なら影響はありませんが、派遣 労働の場合、物件費として税額控除の対象となるところから、派遣受入が、人件費節約 とともに企業の動機として働きます。この面からも消費税減税が求められます。また社 会保険から排除されている現状は、国保や国民年金など、低い給付しか得られない当該 非正規雇用労働者自身にとっての大問題であるだけでなく、特に非正規割合の高い大企 業が社会保険料事業主負担を免れていることが、全体として社会保障財源の縮小に直結 しています。ちなみに、健保に比べ、厚生年金の場合、保険料算定の最高限度が60数 万円の標準報酬月で頭打ちになっていますから、それより高い報酬の会社役員など、高 ければ高いほど保険料負担割合が低くなり、このことも、社会保障財源縮小の一因にな っています。社会保険や福利厚生の分野でも、格差縮小が大きな課題ですし、また社会 保障への、大企業や大企業役員の社会的財政的責任の一層の発揮が求められています。
第3章 改善をめざすにあたっての留意点
1、中小企業・零細事業所とそこで働く事業主・労働者の「一体的」性格
自民党・公明党政府や京都市では、起業や、「頑張る」中小企業への応援を強調しつ つ、全体的には中小淘汰の路線を進める一方で、これは同じことの裏返しですが、「自 己責任」論の一環として、大企業と中小企業の差違を曖昧にする路線も使い分けていま す。労働と生活場面での現実はと言えば、企業規模の大小によって事業主の収入・労働 者の賃金には大きな格差が横たわっています。労働条件や福利厚生、退職金等でも、そ の違いは明らかです。市では中小事業所については「下支え」の対象ですが、本来、そ の差の縮小を目指すのなら、その目標は「底上げ」でなければなりません。
その基本は、…樟榲な支援策とともに、∋業所の団結促進による業界としての自 主的取組への支援、2疾舛韻涼渦舛簑絛眞抉篷瓢漾⊆莪上の諸問題等、大企業への規 制やルール化、ご姥需や公共調達、市からの委託事業等、公共事業の発注元や委託元 としての本市の責任の発揮、スく国民の消費購買力向上による、売上げ向上や景気好 循環による当該事業・産業自体の発展、等々の方向が考えられますが、これらについて は、別に、中小事業所政策として示している通りです。
事業主も、経営者としての仕事とともに、自らも現場の労働に携わるという、二役を 担い、また労働者にとっても、事業全体、事業所自体の、底上げや経営の安定、営業環 境・労働環境の改善向上抜きに、賃金労働条件改善が困難であることも明らかです。と もに肩を並べて汗する労使への全体として支援策が求められています。
(1)賃金労働条件の改善
前述の通り、事業所自体の経営安定が前提です。その上で、事業所への支援を条件 に、1,500円の全国一律最低賃金を国に要望します。市長としてその声を内外に発信 するとともに、先行的に実施する事業所には、その計画を提出してもらい、営業実績 に応じ、市として、最賃不足分に見合う補助金の一部の予算化を検討します。
市公契約条例に賃金条項を追加します。市からの委託事業等においても人件費分を 積算しその支払いを委託条件とするなど、市が発注元・委託元となる場合には、広義 には直接の雇用主として雇用や賃金労働条件について、予め決めた水準を確保し、元 請け・委託先にその遵守・具体化を条件とし、その確認・点検を具体化します。
別の項目で提起している各産業別業種別の振興政策において、当該分野の労働者の 最賃保障に充てる場合、計画に基づいて必要額の一部の予算化を検討します。
労働条件については、各産業別政策の中で必要に応じて触れています。労基法違反 等の摘発は国の仕事ですが、市も、例えば市の委託や発注の事業等での事案について は、必要に応じて指導・誘導、場合によっては契約解除も含め対処します。
(2)事業者と労働者の社会保障の拡充、社会保険の改善
何らかの事情で報酬や賃金が得られなかったり減額となった場合など、社会保障の 充実拡大は、事業者と労働者にとっても切実な課題です。労災保険は国の仕事であり 介護保険料・同利用料の軽減は市の権限で可能ですが、詳細は別項に譲ります。健康 保険と年金は、自治体にとっても改善の一端を担うことが可能です。国保被保険者の うち、扶養家族等、健保への移行が可能な場合等はその方向へアドバイスします。後 期高齢者医療保険制度の廃止を国に要求し、国保の老人医療の復活と、同制度につい ては健保も足並みを揃えるよう国や関係各機関に要求します。国民年金保険料の累進 性と、厚生年金保険料の標準報酬月額表の上限引き上げ、及び、最低保障年金制度創 設を国に要求します。
(3)福利厚生
この分野でも大企業と中小零細事業所との格差は歴然としています。中小の事業主 やそこで働く労働者が、事業所横断的に、気軽に利用でき、文化スポーツを楽しむこ とができる施設や機会を地域毎にもっと増やすことは、直接的な自治体の役割と責任 です。市として計画的な拡充を目指します。
(4)雇用の拡大と正規化
今の京都市では、非正規雇用について、殊更に「自発的非正規」「非自発的非正規」 と区別し、前者の労働者も少なくないなどと強調していますが、そんなことは敢えて 言わなくても、本人が一番よく知っていることです。労働者派遣法の抜本改正、正規 雇用へのルート拡大、雇用契約法の「5年ルール」の普及と徹底、当面、同一労働同 一賃金・待遇等を国に求めます。市として、生活関連公共事業の拡大、発注条件の改 善、元請けの、下請け事業所への下請け条件への指導と監視、分離分割発注、市内事 業所への下請けの要請や義務付け等を検討し拡大していきます。非正規であっても、 社会保険加入が促進されるよう国にも働きかけます。労働局や府との連携など、雇用 拡大等への現行の枠組みの発展を目指します。
高齢者事業団等、雇用促進団体への公共事業拡大と発注増、市の委託業務の場合、 地元中小企業への委託を促進します。まちの匠、住宅リフォーム助成制度等、市とし ての仕事興しの拡大充実に努めます。
市内の中高・大学の卒業や京都市民の卒業時での就職の相談や情報の提供、調査の 実施と蓄積等、市としての支援策について、その方法の拡大充実等へ向けて研究を深 めます。しかしこれらは若い世代の将来を応援する為であって、市内への定住や市内 企業への就職を、何か税財源拠出の原資としてだけの立場から捉えるような考え方に は同意できません。
(5)男女平等、同一労働同一賃金
サービス業や飲食・宿泊業等で女性労働者と非正規労働者との割合が多くなってお り、これらの労働者が重なっています。性別や正規非正規による賃金労働条件の違い があってはなりません。これの是正は国や都道府県でなくとも、調査や是正勧告は可 能です。母性保護制度や育児休業制度の擁護拡充、より根本的には家庭と子育て上で の、一方的な負担偏重を社会的に改め、結婚や育児子育てのために退職を余儀なくさ れ、改めて再就職するという女性へのしわ寄せを一掃しなければなりません。
2、中小企業経営者一般に解消され得ない零細自営業者、賃労働者化する自営業者
原則的に、経営者・自営業者支援策は、別項、中小企業政策または各産業政策として 提起している通りですが、特に、家族経営の自営業者は、今日の自民党公明党政府の大 型店優遇、規制緩和、消費税増税、庶民増税、また「無店舗営業」の拡大・流通の再編 合理化等々の大波を受け、長時間過密労働を余儀なくされている現状です。消費者国民 に、日夜、生活必需品や日常サービスの提供を通じ、市民生活を支える公共的な役割を 果たしておられるにも拘わらず、最低賃金制も労基法も、これは当然ですが、適用され ません。仕入れや仕込み時間も含め、「8時間働けば人間らしいくらし」が、自営業者 にも保障されなければなりません。
(1)課税最低限の引き上げや国民年金・国保等保険料引下げ等々、税制や社会保障の分 野から、支援・底上げ策を検討し具体化します。
(2)消費税減税や、大手量販・通販への規制策の可否の検討、区役所への担当課の設置 による地域での消費販売流通情勢の把握、及び地元公共調達の促進、商店街等協働化 促進とそこへの支援策強化、等々、具体的な販売促進策を検討し具体化します。
(3)仕入れ物価高騰が利幅縮小要因となっているものの、これは必ずしも売上げの減少 とは別の話であるところから、売上げ減少を要件とする補助金の在り方を再検討しま す。
3、それでもやはり労働者固有の課題と独自の現状改善策、その具体化
「一体的性格」との位置付けで検討してきましたが、やはり労働者固有の課題とそれ に対応する独自の改善策立案を曖昧にする訳には絶対にいきません。しかしこれについ ては、既にこの提案の他の項で触れてきた通りです。その上で、この項では、周知の通 り憲法が団結権による自主的自発的改善活動促進を謳っていることから(第28条)、特 に、労働者が自主的に自らの労働条件等改善活動に取組めるよう、その点に絞っての政 策課題を提案します。
(1)教育の場での、憲法や労働法の教育の機会と場を拡げます。
(2)仮称「ポケット憲法・労働法」等の発行・普及に努めます。憲法記念日や文化の日 など、憲法全体や社会権に関する条項等を市民的に学習できる講座や企画を立案・具 体化します
(3)労働相談窓口の設置、または区役所の法律相談のような機会の拡大や、いつでも弁 護士会等に連携を図れる窓口を、市役所または区役所に開設しておくなど、臨機応変 に対応できる体制を創ります。
(4)市民全般とともに、労働者の自己教育の場の保障として、公民館や文化会館の増設 を進めます。また自主的な学習の組織や活動を応援します。
(5)メーデーなど労働者の取組を応援します。
4、制度の「谷間」にある自営業者的労働者と労働者的自営業者
直接、消費者と接する場面での流通を担う等、今日、第一線で国民生活を支える社会 的有用労働であるにも拘わらず、その依って立つ法的基盤が極めて不安定な「労働者」 が増えています。社会保険に加入しながら、雇用契約ならぬ請負と言われたり成果がな ければ最低保障もない、契約相手方から仕事の指示を受け、労働手段を用意してもらい ながら、労基法は適用されず労災も必要なら一人親方扱い、等々、実質は労働者であり ながら、しかし相手方は「自営業者」説を譲らない等々、「谷間」とも言える境界線上 で働く「労働者」がいます。法的位置付けのあれこれの解釈の前に、少なくとも、賃金 の最低保障と労基法または同法水準の労働環境の適用が必要です。また「自営業者」の 場合、またはその境界が不明確な場合、「疑わしきはその労働者または自営業者の利益 に」とし、いずれにせよ立場の弱い者の立場に立って解釈・対応することを原則とすべ きです。
(1)一般的な相談に留まらず、斡旋や調停等、具体的な話合いの場の設定にまで行ける ような、専用相談窓口を開設します。
(2)市において、専門家に依頼し、契約の類型や内容等による各解釈や判断、留意事項、 等々、双方ともが納得しうるような、簡単な冊子様のものを発行し、各当事者にて参 考にしてもらえるようにします。
5、企業規模に関わらず、労働者の賃金労働条件改善をめざす
基本的には、以上の各項目の実現や制度改善等による全体の底上げは、文字通り底が 上がりますから、全ての労働者にその成果が及びます。大企業であっても、「雇われて」 働いていることには変わりがありません。中堅の労働者世帯の「隠れた貧困」も指摘さ れています。これは、第2章の5で触れた通りです。昨今は、○○会等の下請け企業の グループ化が解体されていますが、企業規模による格差を少しでも縮小する立場から、 その方策の一環として、大手から下請けの場合、適正契約や単価の設定、代金遅延防止 等々、しわ寄せの一方的な押しつけが排除されるよう、現行法等の遵守と活用を国や府 等にも求め、市としても可能な関わり方を研究します。大企業自身にも、当然、派遣労 働の受け容れや非正規雇用が存在します。待遇改善や正規化、男女平等等、市としての 発信を強めます。
男女賃金格差の公表義務制度が実現しました。公表を契機として、実質的な格差是正 を目指すとともに、市や公営企業自身において女性の管理職への登用を促進するととも に、社会進出や民間企業での積極的登用がはかられるよう、市としての発信を強めてい きます。
第4章 手法やアプローチ、手立てなど
1、市長の発信
制度的に拘わることが難しい分野でも、市長が発信することによる社会的影響力は大 きな力を発揮します。折りに触れ、声を挙げるなど、中小企業・零細事業者と労働者の 待遇向上・処遇改善、女性の社会的地位と労働条件改善向上、母性保護等を発信します。
2、ブラック企業根絶、パワハラ・セクハラ防止・根絶
例えば、理念条例であっても、これらの目標を掲げた条例を制定し、京都市から一掃 するとの市としての基本的な姿勢を示し、打ち出すことも大きな力を発揮します。
3、実態調査等労働行政、相談窓口の設置等
賃金や労働条件の各項目について、それらの実態調査を、直接、労働者対象に、或い は事業所を通じて、実施することは可能です。国の各種調査の引き写しということでは なく、市独自の手による調査を実施し、分析と今後の施策への活用を図ります。横浜市 や松本市などでは、労働者向けの広報紙の発行や、各種労働調査結果等の資料など各種 図書の充実、それらを保管・展示・閲覧等のできる施設や場所の確保等、市であっても、 このような「労働行政」は可能です。本市も参考にして、以上のような方向への具体化 を目指します。
労働団体と協力または委託等の方法で、相談窓口の設置や、「さわやかワーク」冊子 版の復活、「ポケット労働基準法」の作成発行普及など、制度の広報等に努めます。周 知の通り、憲法では27条と28条で、最低基準の法定化と「当事者はそれ以上の条件を 目指して努力を」と呼びかけています。労働者の団結促進を呼びかけます。
4、各産業政策の立案(再掲)
伝統的な「伝統産業政策」や「商店街振興策」等の他、例えば「建設産業政策」等、 各産業分野毎に、現状分析やその発展方向を提示する政策を立案し、その中で、その必 須の条件として当該労働者の処遇改善の方向も併せて方針化することは可能だし、また 必要でもあり効果的でもあります。特に、前述の通り、中小零細事業所においては、こ の政策抜きに、労働者一般だけの処遇改善策を打ち立てる事は不可能だとも言えるでし ょう。各産業政策と中小一般政策とを組み合わせ、その中でその分野での労働者の処遇 待遇の改善を目指します。
5、市の各種附属機関等の委員に労働者代表を選ぶ場合、連合と総評を平等に扱うこと
これは表題の通りです。労働団体間において、差別のないようにします。
おわりに
以上、地方自治体として、労働者の賃金労働条件改善に向けての政策方向を提案してきました。一般に、従来、この課題は労使の問題であり、行政にとって、まして市町村にとっては縁の薄い分野だと思われてきた経過がありますが、こうして考えてみると,京都市の果たす役割には大変大きなものがあることも分かってきました。関係者の皆さんで議論を深めれば、もっと色々なことができるでしょう。「完成品」としての政策立案以前にも、要求に基づく運動と論戦に取組みながら深めていくことが、逆説的ではありますが、より良い政策づくりに繋がっていくと思います。
同時に、特に現役の労働者の皆さんに呼びかけたいのは、「政策以上の水準」は、是非皆さん方ご自身の活動によって、その、より高いところをめざして頂きたいということです。周知の通り、憲法27条と28条は、政治の舞台による最低基準の設定と、それ以上の水準は、団結権を行使して自ら努力すべしと呼びかけ、また同じく12条では「この憲法が保障する権利は国民の不断の努力を」と謳っています。労働基準法でも総論として、「これは最低基準であり、当事者は更に高い水準を」めざすようにと呼びかけています。行政や議会の立場から、最低基準の引上げをめざす為に力を尽くします。同時に、その基準自体の引上げと、それ以上の引上げは、実に、当事者の皆さんの努力にかかっています。特に中小零細事業所で働く労働者の皆さんにとっては、労使が力を併せてより大手を相手とした共同の運動を発展させることが求められていると考えますし、同時に、今日の時代の運動の必須の課題として、非正規労働者を仲間として一緒に取り組むことも必要だと考えます。労働組合は、身近で切実な目の前の要求実現をめざすとともに、組織の拡大や、より根本的な要求実現をめざす立場から、他労組他団体との共同闘争の発展、恒常的共同闘争組織の活動強化と組織拡大、統一戦線の一員として国民的要求実現の為にも力を発揮して頂きたいと、心から期待しています。とはいえこれらのテーマは、皆さんご自身の活動方針に係わることなので、これ以上の言及は避けなければなりません。議会と市民特に当事者の皆さんの運動が相俟って市長・行政サイドを動かす、更にその運動の上に、市長自身を変えることができれば、これらの政策は、その実現へ向けて大きく前進させることができるでしょう。
関係各位のご意見によって補強しつつ、同時に、(案)が取れる以前からも、可能な項目から、論戦や運動に着手し、その過程でまた実践的にも補強を加えていきたいと考えています。率直なご意見ご感想をお寄せ頂きますよう、よろしくお願いします。
トメ
政策検討チーム>経済政策プロ>労働者担当 2022/5/18 井上けんじ
市外からの通勤者を含む市内事業所の統計なのか、市民対象の統計なのかが不明な点はあるが、概ねの割合や傾向は実態を反映していると思われる。問題は、市民(有権者)の中で、労働者が多数を占めているにも拘わらず、その労働者としての要求に噛み合った政策が、市としての制度上、打ち出すことが弱かったことである。概して、産業政策といえば中小企業対策であり零細自営業者対策であり、また民商や同友会(ここは最近、弱くなっているが)との付き合いが中心で、労働団体等とは必ずしも十分な連携がはかられてきたわけではない面が残る。勿論、今言ったように、制度上の仕組みから言ってこれはやむを得ないことでもあり、従って否定的に総括するというよりも、むしろ今後の方向として、その仕組みをどう乗り越えて政策化していくことができるか、現制度の枠内でというより、新たに自治体の労働政策を構築していきたいという角度から捉えたい。勿論、保育をはじめ社会福祉社会保障の分野やゴミ・環境、まちづくり等々、労働者の子育てや家族の福祉、家庭や地域生活の分野での運動や政策は、団としてそれぞれの課題毎に多くの蓄積があることは言うまでもない。ここで言っているのは、労働政策、労働者政策、仕事の現場での「賃金と社会保障」の問題のことである。
歴史的には、富井・舩橋市政の時代には「労働者は団結しよう」との趣旨のリーフが造られていたこともあったが、今川・田辺・桝本市政以後は「労働行政は府の仕事」という対応が続いていた。その後、国の緊急雇用対策の具体化が迫られる過程で、担当部長が置かれたり、また文市の勤労市民室が辛うじて窓口になっていたり、更には労基法などを紹介した「さわやかワーク」も発行されたりしていた時期もあったが、門川市政以降、みる影もない状態に戻ってしまっている。但し、産観の「人しごと環境整備担当」が「雇用施策の推進」を掲げており、現職労働者の賃金労働条件改善というよりも雇用部門限定の制限付きではあるが、労働行政の一部を担っているという歯止めは、今後の展開への足掛かりにもなるものである。今春予算委員会でも小規模企業の労働者、特に非正規や女性の労働環境改善との質問に「支援の取組を進めている、労働局との意見交換」等と答弁しており、全く不十分とはいえ、市の課題ではないとか質問に否定的な対応とかではない姿勢は示している。むしろこちらからの具体的な政策提案が求められている。
しかし一方、井上の私見は以下の通りである。憲法体系では、働く権利と賃金労働条件の最低基準の法定、及びそれ以上の条件待遇は、団結権保障による労働当事者の自主的活動に委ねられている。従って、所謂「官製春闘」のようなものは邪道であって、最低基準以上の労働条件は、行政が口を出すよりも、団結権促進を専らとすべきが基本となるべきではないか。もっとも、労使への介入というよりも、社会政策上、立場上の発信力を生かして声を挙げるということは大いに有り得るし、また局面によってそれを我々が求めることもあっていいと思う。その辺は臨機応変に。そこでそういう枠組みを前提とした上で、以下、柱の設定と、その柱毎に、課題(例)を挙げてみる。
1、前提として、プロパーの「労働政策」の前にというか併行して、各分野毎の要求と政 策を通じて当該分野の労働者の賃金労働条件改善を目指すことは言うまでもないし、ま た一般的には事業の規模が小さくなるほど各分野毎の産業政策は、当該分野の労働者の 待遇改善を含む内容となってくる。保育分野等を典型に、福祉・医療・介護、「あるく まち」と交通労働者、流通や消費税と商業労働者、繊維産業政策と「糸遍労働者」、観 光政策と宿泊・飲食業労働者、等々。更に、公共事業や公共調達、入札の民主化等が建 築産業労働者や公務受託・受注団体の労働者に及ぼす影響は決定的とも言える程でもあ る。入口としては、労組があれば勿論、雇用主であっても個人自営業者であっても、各 業界団体等との懇談や要求聞き取り、訪問等の活動を引き続き強化し、各分野・当該産 業・業界の現状や要求の把握に努める。例えば熊本県では「建設産業政策」があるが、 各分野毎の政策立案を市に求めていくことも。
2、また何といっても、国の労働法制への批判的な発信を市長に求めることも当然。市職 員・市長雇用の分野、市からの発注・委託、関連分野での労働者の雇用や待遇には直接 責任を持ち、民間労働者への模範的待遇を示す。
3、雇用拡大の取組として、仝共事業の地元発注や下請けの地元参入等、高齢者事業 団等、雇用促進団体への公共事業拡大と発注増、市の委託業務での地元中小企業への 委託、こ慇犬僚⊃β从、イ泙舛両等、市としての仕事興し、Ε灰蹈覆篳価高等、 折々の経済変動時、市として解雇や雇用の実態調査、休業手当等制度の広報を
4、正規雇用の拡大、同一労働同一賃金
5、女性労働者者の賃金労働条件改善労働環境の為に
6、ブラック企業根絶、パワハラ・セクハラ防止・根絶
7、賃金改善の具体化として、仝契約条例への賃金条項設定
8、残業規制等、労働時間短縮への取組にどうアプローチできるか。
9、団結促進
10、社会保障の分野では、々駟櫃ら「社保の扶養家族」広報の発信
11、その他
○ 直接、労働者を対象とした実態調査または中小企業等への調査項目に労働者の現状 把握項目も加える。
○ 労働相談窓口の設置、横浜や松本では、労働者向け広報発行、統計や図書資料、労 働会館のような施設、等々。どこから接近できるか。
○ 理念宣言的条例なら創れないかどうか、例えば「京都からブラック企業(過労死、 ハラスメント等)をなくす条例」のようなイメージ。
○ ポケット労働法・労基法のようなミニ冊子の作成・普及(かつての蜷川府政)。
○ 市の各種附属機関等の委員に労働者代表を選ぶ場合、連合と総評を平等に扱うこと。